interview

『地縛少年花子くん』安藤正臣監督&シリーズ構成・脚本の中西やすひろが全話解説!「花子くんは怪異に囚われた人魚姫の物語なのかもしれない」

2020.07.08 <PASH! PLUS>


PASH! PLUS

 TVアニメ『地縛少年花子くん』Blu-ray&DVDの発売を記念して、安藤正臣監督と、シリーズ構成・脚本の中西やすひろさんが全話の制作秘話・裏話を解説。発売中のPASH!7月号、さらに7月10日(金)発売の8月号の2回にわたり、大ボリュームでお届けしています。

 この度、その一部を特別にご紹介!

hanakokun

第一の怪『トイレの花子さん』

【あらすじ】
 かもめ学園高等部1年生の八尋寧々は、先輩と両想いになるため、大切なものと引き替えに願いを叶えてくれるという「トイレの花子さん」を呼び出す。だが、現れたのは男の子の幽霊だった!?

安藤 第一の怪でまず印象深いのは、教室のステンドグラス。原作に元々存在する設定で、かもめ学園の教室は1階から上に行くに従ってステンドグラスのデザインが「海底」「水面」「空」のモチーフに振り分けられている。寧々の高等部1年の教室は「海底」。第一の怪の後半で夕日を鈍く透かしたそのステンドグラスの美しさを見たときに、この作品に携わっていただいている美術と撮影の確かな実力を実感したのを今でも覚えている。「これは素晴らしい作品になるぞ…」と。まるで教室自体がひとつの水槽の中のようだった。

 そういえば、第一の怪で寧々魚を水槽に捕まえたのは花子だし、そこから救い出すのも花子だ。解釈を飛躍させれば、あの夕暮れの女子トイレも寧々を囲い込む水槽のように思える。作中の怪異空間にも頻繁に水の表現が出てくる。もしかしたら寧々の目線で見てみると第一の怪だけでなくこの物語全体が、「怪異に囚われた人魚姫の物語」なのかもしれない。そうすると教室のステンドグラスが、進学していくと共に「海底」から「空」へ抜け出していく並びになっているのは、どこかこの先の物語に対して示唆的に感じる。あいだいろ恐るべし、である。

 構成をまとめてもらった中西さんは、第一の怪でアニメオリジナルの「指で作ったハートマークから覗き込む花子」を描いた功労者でもある。全体をまとめるだけでなく、ほかにもそういう小技を随所に効かせる頼もしいライターさんだ。楽しさに溢れて、尺的に少し餡子がこぼれそうな内容を、簡潔にそれでいて性急にならないリズムに収めてみせる映像編集の伊藤さんの手腕もあった。ここまででお気づきになった方もおられるでしょうが、今回の振り返りのコメントは全体的に『花子くん』のアニメスタッフたちがどれだけ有能で、監督がどれだけ楽チンしたかを懺悔する内容になることを先に白状しておく。

中西 『地縛少年花子くん』をアニメというメディアに落とし込むときに一番苦労しそうだなと思ったのは、原作の持つ不思議な空気感。花子くんと寧々ちゃんの距離感をどれだけ表現できるかという部分でした。花子くんと寧々ちゃんの出会いを、原作同様に丁寧に描いていかなければ作品の魅力を未読の視聴者にまで伝えきれないと思い、第一の怪の脚本はなるべく原作を再現できるよう気を配りました。

第二の怪『ようせいさん』

【あらすじ】
 花子さんの助手になった寧々は、毎日トイレ掃除ばかりさせられ不満を募らせていく。そんなある日、学園内で物がなくなる事件が多発。生徒たちの噂では「ようせいさん」の仕業のようで…?

安藤 もっけ初登場! もっけが画面で歩き、跳ねて、しゃべる! それだけで世界は救われ、このアニメ化の意義が達成されたといっても過言ではない! それ以外に語ることがない回です。あ、ついでに光くんも出ます。
 …ごめんなさい。ほかにもたくさんあります。特に第二の怪は多種多様に変わる色彩に言及したい。原作の独特な少し退色してるようでポップな色合いをちゃんと再現しているだけでもお見事な美術とセルの色彩設計だが、この作品ではそれだけに留まらない。舞台を学校に限定している作品なので、同じ廊下や屋上では本来色彩に変化はないはずだが、今回は私のワガママで「怪異の種類」や「キャラの心境」に合わせて画面全体の色を変えるという暴挙に出ている。これは凄いことです。…ホント、…ホントにごめんなさい。
 例えば廊下のシーンだけを抜き出しても、まず最初は「薄暗く静かな昼下がりの廊下」から始まり、合体したキングもっけが登場してからは「赤黒もっけ色の不気味な廊下」に様変わりし、花子がそれを退治した後は、「幸せで暖かな廊下」に変わっている。こんな無茶ぶりをシリーズ全編にわたって、しかもそのすべてを花子の世界観を壊さないセンスで実現させた、美術、セル色、それをまとめ上げる撮影各位の素晴らしい画作りを改めて注意深く観ていただきたい。あと、もっけも!

中西 学園に存在する怪異と怪異を敵視する人間に出会ったことで、舞台が学園オンリーでありながら世界観がぐっと広がった回です。現在も連載中の原作を1クールのアニメにする際に、人間が怪異がどう接していくのか…というのが主題になった気もします。そういった意味で、最後に寧々のモノローグを追加しました。

(※PASH!2020年7月号より抜粋)

3話以降の解説を読みたい方
もっと詳しく知りたい方は、

(Amazon)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

PASH! 2020年 07 月号 [雑誌]

■『地縛少年花子くん』Blu-ray&DVD情報

発売日:上巻6月24日、下巻7月29日
発売元:ポニーキャニオン 価格:Blu-ray18,000円+税、DVD16,000円+税

■TVアニメ『地縛少年花子くん』
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/anime/hanakokun/ 
公式Twitter:@hanakokun_info

CAST:
花子くん=緒方恵美 
八尋寧々=鬼頭明里 
源光=千葉翔也
ほか

STAFF: 
原作=あいだいろ(掲載 月刊「G ファンタジー」スクウェア・エニックス刊) 
監督=安藤正臣 
シリーズ構成・脚本=中西やすひろ 
キャラクターデザイン・総作画監督=伊藤麻由加 
助監督=仁昌寺義人 
美術監督=栗林大貴(KUSANAGI) 
色彩設計=多田早希 
撮影監督=酒井淳子(MAD BOX) 
音響監督=飯田里樹 
音響制作= HALF H・P STUDIO 
音楽=高木 洋 
音楽制作=ポニーキャニオン 
アニメーションプロデューサー=比嘉勇二 
アニメーション制作=Lerche
製作=「地縛少年花子くん」製作委員会

©あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん」製作委員会

タグ

オススメ
あわせて読みたい