本日発売『私は敵になりません!5』発売記念SSを公開!

2017.02.24 <PASH! PLUS>

著:佐槻奏多 イラスト:藤 未都也 ©satsukikanata

2/24発売のPASH!ブックス最新刊『私は敵になりません!5』の発売を記念して、ここでしか読めないショートストーリーを特別公開!
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師匠の知り合いが急増した理由

 

「あ、師匠殿だ」

「あざーっす、師匠殿」

師匠が一人で歩き回りたいというので、リアドナからエイルレーンへ移動する道中、町の近くに逗留した時は師匠をあ歩かせていたのだけど。
師匠は、兵士のみなさんから気軽に声をかけられていた。

「うむ、挨拶をするとは良い心がけじゃの。ヒッヒッヒッヒ」

師匠はご機嫌で笑いながら、てくてくと小さな足で無数の天幕の間に作られた広い道を歩いて行く。

天幕から出ようとした人も「あ、師匠殿」と足を止めて、挨拶をした。

たぶん師匠は、この状況が楽しくてわざわざ歩き回りたかったのだろう。

師匠が有名人になるのは理解できる。奇妙な遮光偶の体だし、人形にしか見えないし。それが動くししゃべるんだもの。不思議よね、気になるよね?

だけど、こんなに顔見知りっぽい感じになるほど馴染んでいるとは思わなかったの。

「師匠、いつの間にみんなと仲良くなったの?」

「確かに知り合いらしきものは増えたのぅ。原因はあれだろうが、ヒッヒッヒ」

「原因?」

「ほれ、あれじゃあれ。お前がサレハルドに捕まっている時の戦いで、わしが土人形に乗って単独で動いていたじゃろ?

 あの後、くずれた土の中から這い出た時ににな、運よくエヴラールの兵士が近くにいて拾われたんじゃが……」

 その後が、問題だったらしい。

「お前の魔力でわしは動いているじゃろ? だからお前の土 ゴ ーレム 人形もある程度操れたわけじゃが。そして一匹だけ、変な 場所に這い出た土ねずみがいてのぅ……追いかけられた」

「土ねずみが、師匠を?」  

確かに師匠には私の魔力が流れている。そして微量でも土の魔術を感知してしまうと、土ねずみはやってくるらしい。

「でも土ねずみって、ものすごく動きが速くなかったですか? もしかして師匠、一度は貯蔵されちゃったの?」  

とても兵士が走って逃げられるような速さではないと思うのだけど。

「そこは兵士達がとっさの判断で……わしを複数人で投げて移動させながら走り、エヴラールの陣まで退き上げたん じゃ」  

私の頭の中に、ラグビーボールのようにパスされる師匠の姿が思い浮かんだ。

「しかし土ねずみはしつこかった。そして素早すぎての……。何人かの兵士が突き飛ばされ、あわや盗られそうになっ てはわしを投げ、受け取った者は必死の形相で走りと……。とにかく凄まじい状況じゃった」  

師匠が説明してくれる。  

しかもそれを戦場で行ったのだ。いくら勝敗が決して撤退途中とはいえ、まだ残っていた敵兵もいただろう。途上に は、ラグビーをしながら疾走してくる集団の行動がよくわからなくて、呆然とした味方の兵士だっていたに違いない。  とてつもなく混沌としていただろうことが、私にも想像できた。

「それでも兵士達は、エヴラールの小僧っ子から『これがないと魔術師が戦えなくなる』と言われていたらしくてな。 戦 の趨勢に関わる案件だからと、混乱した中を走り切った」  

エヴラールの小僧っ子というのは、きっとアランのことだろう。

「しかし問題はここからじゃ」

「まだ問題があったの?」

「土ねずみは、当然エヴラールの陣までやってきて、邪魔する兵士を突き飛ばしてしまったのじゃ」

「あ……」  

それはなんというか。戦が終わりかけたところで土ねずみが押し寄せてきて、さぞかしみんな大変だっただろう。

「取り押さえるのも、なかなか難しくてのぅ。最終的に、誰かがわしを抱きこんでおけば土ねずみがこちらに気付きに くいとわかってな。その場にいた兵士達が積み重なるようにしてわしを隠した。それで土ねずみが目標を見失ってぼん やりしているところを、捕まえたんじゃ」

「なるほど……。師匠に声をかけてくれた兵士のみなさんは、その時に協力してくれた人達なのね」  

私は一連の話と、その結果に納得した。どうりで急に知り合いが増えたなと思ったのだ。リアドナ砦での戦いからだっ たのか。

「そういうことじゃの。一致団結して一つのことにあたった後だからかのぅ、妙な親近感が湧いたようじゃ。あちこち で無事を喜ばれ……。その時にわしの呼び方がわからんかった者がいてな。でもわしが名乗る前に誰かが『師匠って呼 ばれてたはずだから、師匠さんでいいだろ』と言い出して、そういうことになったみたいじゃなぁ」  

きっとそれ、私が師匠と呼んでいたのを聞いていた人だ。師匠本人もホレスと名前で呼ばれなくても、全く構わない みたい。

「それにしても、あの戦いの時にそんなことになっていたなんて。びっくりしました」

 私が驚いていると、師匠が「ウッヒヒヒヒヒ」と笑った上で、小声で言った。

「そりゃお前さんは気づかんかっただろうなぁ。なにせ王子とあれこれあって、頭がいっぱいだったろうからの」

「ひえっ」  

小さな声だったけど、他の人に聞かれたらどうするの !?

「も、もう師匠ひどい! お散歩はここまで!」

 

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