発売特典SS 公開『転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう5』

2016.08.26 <PASH! ブックス>

PASH!PLUSでしか読めないショートストーリー!!

著:佐伯さん イラスト:カスカベアキラ

【秘密のクッキング】

……ジル、そこに座りなさい」

「はい」

 主人と従者という関係から夫婦になった私達。基本的に私から命令する事はもうないのですが、今回ばかりは命令口調になってしまうのも仕方のない事だ、と私は思っております。

 ジルを居間の床に両足揃えてきっちり座らせる私。所謂正座体勢です。ジルは素直に従ってくれているので、自分のした事をちゃんと理解しているのでしょう。

「ジル、私は厨房は使うなと言いましたよね? 絶対に使うなと言いましたよね?」

……はい」

「では何故今回は厨房を使用したのでしょうか。というか何したんですか、なんで金属製の型が溶けてるんですか」

……何ででしょうね」

「目を逸らさない!」

 非常に気まずそうに目を逸らされたので両手で顔を掌(てのひら)で挟むようにして戻すと、ジルは珍しく焦ったようで、というか顔をうっすら青くしています。

 やった事が悪いと思ってるなら結構です。というかこうなる事位、想像がついたでしょうに、何故実行したのか。

 お片付けをするのは私なので「全くもう」と言いつつジルの頬をつつきつつ、厨房の惨事を思い返します。

 酷かった。何か粉が撒(ま)き散らされてるし、一回軽く爆発したような形跡があったし。あと魔術で誤魔化した形跡も。

 折角綺麗に使っていた私の城をぐちゃぐちゃにした事は、まあ本人も反省しているようなので怒る気はありませんけど。

 咎(とが)めはしますが、怒りません。こそこそしていたのに気付かなかった私も私です。

 問題は、何の用事があって厨房を使ったのか。

「何を作ろうとしたのですか」

……言わないと駄目ですか?」

「勿論(もちろん)。禁止令出してたのに破ってまで作りたかったものが何なのか、是非とも聞きたいです」

 賢いジルなら自分の料理の腕前ぐらい分かってるでしょうし、失敗したら叱られる事は分かりきっていたでしょう。

 それなのに、何故、こんな無茶をしたのか。

 食べたいものがあるなら私か本邸のシェフに言えば事足りる筈(はず)です。わざわざ自分で作ろうなんて発想はしない筈なのですが。

 屈んで正座するジルをじいっと見ると、とても言いにくそうに唇をもごもごと動かすのですが、そのまま見続けていたら観念したのか溜め息。

……その。リズは甘いものが好きでしょう?」

「ええ、好きですね。だから自作してる訳ですけど。ジルだって好きでしょう?」

「はい、甘いものは好きですよ。……だから、私ばかり与えられている状況が複雑だったというか、私もリズを喜ばせたいと思いまして」

……手作りのお菓子を作りたかった、という事ですか?」

 結論を口にすると小さく頷(うなず)かれて、これじゃあ本当に怒れないな、と思ってしまうのです。いえ怒るつもりはないんですけどね。

 ……私に手作りのお菓子を振る舞いたかったから、厨房をこっそり使った。つまり、私の為に頑張ろうとしたんですよね。

 約束を破った事はとても褒(ほ)められる事ではありませんけど、その心遣いは、素直に嬉しい。

 ……言ってくれれば良かったのに。そうしたら、流石(さすが)にジル一人で厨房を使わせる訳にはいきませんけど、指示絶対厳守の約束の下に私かシェフが一緒に作ったのに、な。

 怒られるとばかり思っているらしいジルは、バツが悪そうというか、気まずげに顔を俯(うつむ)かせています。全く、もう。

……何を作ろうとしたのですか?」

……ケーキを」

「初心者が無理しすぎです、もう。簡単な料理で爆発引き起こすんですから。……せめて、ゼリーとか、パンケーキから始めましょう? 私も一緒に作りますから」

 多分私がケーキとか焼き菓子が好きだからそんな無謀なものに挑戦してるんですよね。……ステップを飛ばしすぎなのです。もうちょっと初心者向きのものにすれば、見張りつつなら出来なくもないかもしれないのに。

「しかし、私が作って差し上げるという目標が」

「じゃあ上手くなったら、にしてください。最初は一緒に作りましょう? 安全ですし、それに」

「それに?」

「夫婦の共同作業って思うと、楽しくありませんか?」

 ジルは、一人で作って驚かせたかったみたいですけど……そんな無茶するより、二人で一緒に作って安全を確保しつつ時間の共有をする方が良いと、私は思いますよ。

 驚くジルに悪戯っぽく笑いかけると、ほどけるように表情が柔らかくなって、それから擽(くすぐ)ったそうにはにかむのです。何だか照れ臭そうに頬を掻いて「そういう事でしたら、喜んで」と笑ったジル。

 先に立ち上がって正座させていたジルに手を差し伸べると、ジルは私の手を取ってゆっくりと立ち上がります。ふらついたのは慣れない体勢を強いてしまったからでしょう。

「じゃあ、取り敢えず今日は一緒にお片付けしましょうか」

「うっ。私の責任ですから、仕方ないですよね」

「ふふ。型も買い直しですね、何をしたらこうなるんだか。まあ、良しとします」

 とても申し訳なさそうなジルと手を繋いで、厨房に戻りましょう。

 焦らなくたって良いのですよ、だって私達はまだまだこれからがあるのです。ゆっくり、少しずつでも上達すれば良い。いつか、美味しく作ってくれたら、良いのですから。

 でも、おばあちゃんになるまでには、上達してくださいね? ちゃんと待ってますから、安全に頑張って欲しいものです。

 ふふ、と 上機嫌さを隠さずに笑うと、ジルもまた安堵したように微笑みました。

(了)


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